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曦蔭庵/giin-an

愛知県名古屋市

下記 ≪景の園≫ 計画趣旨より  白鳥庭園のあるこの場所には、かつて白鳥貯木場という材木を保管するための施設があったと聞きました。当たり前のことですが、山にある木々から切りだされた材木は人々の営みの近くまで運ばれ、用途に適した大きさに切り出され、それぞれの職人さんが、これまたそれぞれの用途に適した形に加工し、道具や建物などとして人々に届けられるのですが、毎度毎度必要なときに、その都度その都度山から木々を切り出していてはとても追いつきません。  ゆえに、人々の営みの近くに材木を保管できる場所が必要であったわけで、それが「貯木場」という場所でありました。少し昔の名古屋にも、たくさんの材木を保管しておく貯木場があって、その脇にはたくさんの製材所があって、生活のすぐ近くに職人さん達が自分たちの技術を、町のため、人のためにふるっている姿があったわけです。現代では安全面などの観点から仕方のないことではありますが、そのような生産者の働く姿が少し見えづらくなっているような気がします。  さて、ここ白鳥庭園は、中部地方の地形をモチーフに、築山を「御嶽山」、そこからの流れを「木曽川」、流れの水が注ぎ込む池を「伊勢湾」に見立て、源流から大海までの『水の物語』をテーマとして作られている日本庭園です。庭園のほぼ中央、流れのほとりには数寄屋建築/清羽亭が静かに、美しく佇んでいますが、これは人々の営みや日本文化の象徴と見ることが出来ます。  初めて庭園を訪れた時、これは『水の物語』であると同時に『木の物語』でもあると思いました。この庭園は日本という土壌が長い年月を経て培ってきた≪山と水と人≫が織りなす文化を俯瞰して学ぶことができる稀有な場所だ、そう思えたのです。  今回、白鳥庭園30周年という記念すべき年に野点茶席を設計するという機会をいただき、これは是が非でも実際に形にするまでやり通すべきだと思いました。この場所でやり通す、ということです。  この場所であれば、≪林業≫を通して≪山との関係≫を、≪木≫を通して≪材料≫を、≪数寄屋≫を通して≪建築≫を、≪庭園≫を通して≪風景≫を、≪茶道≫を通して≪文化≫を学び、茶席という一つの≪形≫を考えることで≪設計≫を、実際に作り上げることで日本が誇る≪木材加工≫という≪技術≫を学び、モノづくりや美意識は、そんな多くの見えない≪関係性≫から編み出されるということを学ぶ、きっとそんな流れを作り出す事ができるのではないかと考えました。  限定茶席/曦蔭庵(ぎいんあん)は、これらを一年をかけて学んできたトライデントデザイン専門学校の学生達が、悩みに悩んで導き出した4つの回答の中から、たった1つを選出し、さらに職人さんたちの声を聞きながら、全員で実現に向けてまとめあげた茶席です。粗削りではありますが、現代を生きる若者たちが伝統文化や日本の美意識に触れ、素直に感じ、生み出した形。そんな背景も伺い見ながらご体験いただければと思います。  最後に、この写真は御嶽山に見立てた白鳥庭園の源流風景です。庭園と学生達の手がけた茶席を通して、現代では少し見えづらくなってしまった日本の源流、原風景を、ほんの少しでもお届けすることが出来れば幸いです。  山吹設計工房・岩﨑孝史

主要用途  野点茶席

敷地面積  約 3.7 ha

延床面積  8.18 ㎡

構造規模  木造/地上1階

企画設計  トライデントデザイン専門学校

      インテリアデザインコース2年学生

意匠監修  山吹設計工房

実施設計  山吹設計工房

​施工    加藤建築

​大工    山内洋平

​竣工    2021年11月

photo:uemura takashi

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